下剤からクリーンルームまで：巨大な経歴を持つ小さな分子

CAS 577-11-7、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムは、化学界の万能ナイフとも言うべき存在です。しかし、おそらく今、あなたのスマートフォンよりも身近な存在かもしれません。スプーン一杯を小児用シロップに混ぜるだけで、頑固な便に水分を浸透させ、トイレで泣く泣く済ませる必要もなくなります。数ミリグラムをウェハーファブの容器にピペットで入れると、同じ分子がシリコン上をくるくると回転し、超音波ですら届かないサブミクロンの汚れを浮かび上がらせます。イオン性の尾部1つ、分岐したオクチル基2つ、そしてスルホン酸基1つ。これだけで、生体適合性のあるケア用品と工業用レベルの汚れ落としを切り替えられます。

一体どうやって二重人格を実現しているのだろうか？疎水性の尾部が油膜に食い込み、陰イオン性の頭部が水に吸着することで、自然発生的に乳化液を形成し、疝痛を引き起こす赤ちゃんの脂肪から航空宇宙タービンに付着した切削油の残留物まで、あらゆるものを洗い流す。農薬タンクでは、殺菌剤を均一に分散させるため、一滴でブドウ園の葉全体をコーティングできる。マスカラでは、カーボンブラックを浮遊させておくことで、昼食時にアライグマの目ができないようにする。食品技術者は、ココアパウダーを粉っぽさのないインスタントチョコレートミルクに変えられると高く評価しており、救急室の看護師は、心臓手術後にいきむことができない便秘のICU患者の下剤に頼っている。

グリーンケミストたちは現在、プリント基板のリサイクルにおいて、より強力な溶剤に代わる低用量製剤の試験を進めている。一方、薬物送達のスタートアップ企業は、粘液バリアをすり抜けて針を使わずにインスリンを送達できるナノ粒子にこの分子を封入しようとしている。100年前の分子が今もなお新たな章を刻み続けている。最高の発明とは必ずしも派手なものではなく、常に自らを進化させ続けるものであるという証左と言えるだろう。